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題名:針ポッたな魔法使い
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1871の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

 獣が銃を放つなら、彼は、銃を放たなかった彼、くっくどぅーどるどぅは、獣ではなかったのだろうか。そこに僕に対する彼なりの配慮があったのだろうか…?
 何も分からないまま僕はぼんやりと眠りに近い瞼で混沌としていた。
 気がつけば、口元から何だかまた血の味がした。再び出血をしているみたいだ。でも、その量は微かで、ほっておけばこのまま何とか一夜はすごせるかもしれない。変にナースコールを押すことは控えよう。新人の彼女にも配慮はすべきだろうな。何かが欠けている僕には、妻に対しても看護師さんに対しても、配慮すべきなんだ。だから、僕は、ナースコールを押すことを決してしなかった。
 職場にはしばらく休むと、妻は連絡した。まっ、今の仕事なら僕がいなくても何ともなる。そんなレベルだ。僕にとっては、仕事に全うしていない僕にすれば、仕事なんて金を稼げればそれでいい。日々、チキンラーメンが食べられれば、それでいい。だから、仕事自体は、本当はなんだっていいのだ。そう、思えた。とやかくうるさいことをいわれず、日々漫然と過ごし、わずかの金銭で過ごせれば、それでいい。
 でも、金銭ってその存在なんなのだろうか。金って。たまたま浮かんだ。
 次第に電子マネーの今の世相で、金ってなんだという疑問がたまたま沸き起こった。
 ただの数字の増減じゃないか。電子マネーになれば、札も、硬貨も意味がない。数字が上がれば、それでいい。そんなはただのやり取りだ。だから、もう、日々、それで暮らせれば、それでいいんだろ。僕は、チキンラーメンが食べられれば、それでいいんだ。時には、その上に卵を落としたくなるも、そんな贅沢はなくても何とかなる。基本は、お湯に、チキンラーメン。それだけで、何とかなる。日々、過ごせる。
 相変わらず血の味が口の中でしていた。その味を感じながら、僕は眠気に対抗していた。
 お腹も空いていた。たぶん今は口から食べることが出来ないから、点滴のみでの食事、栄養補給。そうなんだろうな。そう思いつつも、口からやっぱり何かを入れたかった。ハイネケンでもいい。食べたい飲みたい欲求が起こりつつ、点滴の先から見えるボッたボッたと針に落ちるその針ポッたな液をぼっーと眺めていた。すると、魔法のようにまたもや深い眠気に襲われた。針ポッたな魔法使いは僕を眠らせようと仕組んでいるんじゃないのか、といぶかしげに思えども、その眠気にはもはやかなわなかった。僕は再びその魔法使いに従うかのように、徐々に意識が遠のいた。

 朝になり、新人の彼女とは別の、ややベテランらしき看護師さんに、「随分と顔の腫れがひきましたよ。よかったですね」といわれた。(そうか、随分と腫れがひいたのか..)。その言葉に安堵しながら、窓を見ると、窓の外の世界は随分と晴れていた。今日一日はいい天気らしいな。そんな晴れ方だった。
 腫れと晴れ。互い違いのハレ。
 そのすぐ後に、部屋の扉が開いたかと思うと、仕事に出勤する前の様子の妻が扉の向こうに現れた。
「ダリオくん。体調どうなの…?」
「いいふぁんじかにゃ。ずいふんとはれもひいちゃみたい…」
 妻が僕の言葉ににっこりと微笑んだ。



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