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題名:問答無用
報告者:ダレナン

 本報告書は、基本的にNo.1866の続きであることを、ここで前もってことわりたい。

「うちの冷蔵庫は蒸発しやすいんだ…
 そういった瞬間、妻は怒っていた、いや笑っていた。いや、呆れていたように見えた。
「そんなはずないじゃん。あなたが食べたんでしょ。正直にいいなさいよ」
 僕の目には妻が呆れていたかのように見えていたが、すごい剣幕でどやされた。そうだ、食べ物の恨みは恐ろしいんだ。でも、僕にも理由はあった。
 若干、若干、そう若干なりともお腹が空いていたのだ。
 キリンに触発され、胃袋がまるで底の見えない深い井戸のように、深く深くまで掘り下げられていたんだ。
 ひゅー….その井戸に石を投げても全く音が聞こえない。ちゃぽんとも、こちんともいわずに、石は深い井戸の底に吸い込まれ、同時に僕の意思もそこに吸い込まれていった。そうして僕は、もう一回妻に伝えた。
「うちの冷蔵庫は蒸発しやすいんだ…」
「ふん…。じゃあ、今すぐ買ってきてよね」
 その時、思った。冷蔵庫の出逢いで人のものを勝手に食べると、冷蔵庫は蒸発しやすくなるということを。意思もまた失われるということを。
 そして、僕はまた一つ大人になった。大人になった僕は、未確認プチティラミスを探す旅に出た。
(きっとうちの冷蔵庫は奈落の井戸に通じているに違いない)

 その論理は破綻していない。それでも、ハ短調のように軽やかに音を奏でている。
 ハ短調?
 ハ短調ってなんだっけ?
 その時、運命はハ短調で扉を叩いた。ジャジャジャジャーン、ジャ、ジャ、ジャ、ジャーン。

 ここで、また悪い癖が出てしまった。運命はハ短調で扉を叩いたかと思うと、『運命』はなぜハ短調で扉を叩くのかをポチってしまう。読みもしない本がどんどんと玉利、砂利のようにそこらじゅうの場所を占領し、しかも、じゃりじゃりと音がする。
 それは、文明開化の音なのか、それとも大人になったのにじゃりへと戻る一歩手前なのか。
 それは分からない。無用にもほどがある。問答無用。モンド・ウムヨウ。モンドならば、宮中で飲料水などを司った令制の官職モンドは、ウムヨウなのか。ここらへんで、生むよう、生むよう、生まれるよう…。
 おぎゃーおぎゃー。ついに生まれた。玉のような赤ちゃんだった。玉のような、タマのような。ポチじゃないのか、それは。だから、ポチったんだろ。ポチり増した、ますます増した。ちゃりんちゃりんと電子マネーの音がして、自転車にひかれそうになった。あまりにもぼーっとしている僕は、倒れた後に腰を上げ、そうしてズボンのすそをパタパタと叩きながら、自転車に乗っていたその人に向かって怒鳴った。「君、危ないじゃないか」。「おめえがぼーっとしてるからあぶねーんだよ。そうじゃねえのかよ、おっさん」。「君、僕に向かって、おっさんって失敬な。なんたる侮辱」。「おっさんは、おっさんだよ。ちぃ、おめえうるせーやつだな」。



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